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NISHIDA
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オリンポスの果実

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オリンポスの果実

   春めく日も増えてきて、暦は弥生三月となってきました。
 月が変わっても、テレビでは相変わらず平昌オリンピックのメダリストたちが登場し、日本全土が勝利の美酒に酔っているような日々が続いています。それほど今回のメダルラッシュはインパクトがあったということでしょうか。
 とかくメダルばかりが注目されますが、私はこのオリンピックを見ながら「オリンポスの果実」という言葉を思い浮かべました。これは戦後すぐに発表された小説の題名で、私は本は読んだことがないものの、そのタイトルが印象的なので名だけ覚えていたものです。
 オリンポスの果実。今回のオリンピックは、なんとまあ、沢山のさまざまな果実を我々に見せてくれたことだろうと思います。感動という果実もあれば、違和感という果実もある。さらに発見という果実もあり、心が温かくなるような友情の果実もある。これらの果実から、明日へのヒントを、生き抜く智恵を得て、今後につなげたいと思ったことでした。

 このオリンピック。まずはこの四年に一度の祭典を、政治的に利用しようとする動きへの違和感からすべてが始まりました。オリンピックのたびに繰り返される作為的な融和演出に、しらけた思いで報道を見ていたのは私だけではないはずです。スポーツの祭りが、別のものの手によって形を変えられていくやるせなさに、競技そのものへの関心が大きく減速していったものです。
 ところが実際に競技が始まってみると、スキーモーグルでメダル候補でなかった二十歳の原 大智選手が、いきなり銅メダルを獲得。東京都渋谷区出身という都会育ちの彼がいかにもリラックスした様子で勝負に挑み、メダルをさらって行く姿に、こんな選手が出てきたのかと驚きを隠せませんでした。
 その日は、スキー女子ジャンプで髙梨沙羅選手が同じく銅メダルに輝き、ソチオリンピックでの雪辱から四年間、どんなプレッシャーのなかで彼女が闘ってきたかを思うと、胸がじんとしてしまいました。同じ仲間の伊藤有希選手と抱き合って涙する様子に、彼女の苦労と努力を思ったことでした。その後のインタビューでソチからの4年間のことを尋ねられた髙梨選手は、「あわてず、あせらず、あきらめずに努力してきた」と語っていました。われわれ大人でも、ちょっとしたことですぐに心が折れてしまうのに、なんて強い人だろう、なんて素晴らしい言葉だろうと感動したものです。

 そこからは次から次へとメダル獲得が続き、歓喜の嵐はずっと続いていきました。
 スピードスケート女子500メートルで金メダルを獲得した小平奈緒選手と、それまでのオリンピック世界女王だった銀メダルのイ・サンファ選手との友情には、本当に心動かされたものです。歴史問題を抱える両国のライバル同士が、こんなにも暖かい心の交流を育めるものなのかと、感動を持って眺めました。自分の能力の限界を突き詰め、自分をさらに磨いていこうとするアスリートたちのスピリットは、実に純粋でひたむきです。だからこその友情が生まれるのだろうと思いました。
 そうして、女子チームパシュートの日本チームの活躍。
 メダリストばかりを集めて力で押してくるオランダ勢に対して、個人での能力は劣りながらも技術を極めて臨む日本勢。科学力学的に研究を重ねて、風の抵抗やメンバーの並び替えのテクニックを追求し、ついにはオリンピック新記録で優勝するという快挙を成し遂げました。その「厳しい条件のなかでも工夫に工夫を重ねる」という姿勢がいかにも日本的で、まるでビジネスの世界を見ているかのような驚きと爽快感でした。そして、それを指導しているのがオランダ人のコーチということで、ここでもアスリートの友情や魂というものを感じました。
 最後の女子マススタートでも、高木菜那選手が絶妙テクニックでの金メダル獲得。勝利を喜ぶ一方で、銀メダルを得た韓国選手の驚くべき陳謝の様子と表彰台での暗い顔。隣の国なのに、その国のことをわれわれはまったく理解していなくて、これは大きな示唆となりました。

 美しい果実ばかりではなく、厳しい事実をも見せられた平昌オリンピック。
 スポーツの感動ばかりではなく、世界のあり方の複雑さをも思い知った、夢だけではない現実の舞台でした。
 続くパラリンピックでは、夢に酔いたいと思うのですが。

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