六月のホイッスル

暦はめぐって六月となりました。
今年の気候は随分と慌て者のようで、遅めの春が終わったと同時に真夏のような暑さが続く日々。季節がひとつ丸ごと省略されてしまったような印象ですが、これから梅雨の頃となるのです。そうなるとこの暑さもしばし小休止となるはずで、早く降ってくれないものかと思うばかり。今年ほど梅雨を待ち望む気持ちが高まる年は、そうありません。
六月といえば、我が社では組織再編の月となります。
現在の状況で業務の推進がスムーズでない場所にメスを入れ、元気よく勢いよく仕事が流れていくためのカンフル剤を投入するというメンテナンスを行い、これに従って再スタートを切る時期となります。そのために数ヶ月をかけて社内スタッフ全員と面談を行って現況の問題点を話し合い、さらに本人の業務上の希望をすくい上げるという作業を行ってきました。
五月半ばになると、スタッフみんながソワソワとし始めます。まだ人事異動の発表はしないんですか、早くわからないと落ち着きません‥などという訴えが出てくるようになります。それをなだめて、時期が来るまで待ってもらったところで、五月最終の週末に社内情報共有サイトで社員全員に向かって一斉発表となります。
私はその日は仕事がらみで人と会っていたのですが、発表した途端のパソコンの向こうでのみんなのどよめきが聞こえるようでした。
それから週を明けた六月一日月曜日に、組織再編を受けて初の全体朝礼で全員の顔を眺めてみました。
人事異動に納得している顔もあれば、不満げな顔もある。新しい責任に緊張の面持ちもあれば、逆に少し落ち込んだ様子の顔も見て取れます。そんな全員に向かって、私はここぞと檄を飛ばします。より機動力を高め、より力強く業務を推進していくために今回の組織編成を行った。滞っている箇所を改め、より責任の所在を明確にし、守備範囲を広げ過ぎて散漫になりがちだったところを分散化してコンパクトに力を集約できるような編成とした。不満のある者もいるかもしれないが、我が社は減点主義ではなく加点主義である。これから違う分野やポジションで力を発揮すれば、必ずや評価されていく。どうか気持ちをリセットして頑張って欲しい、と。
そんなことを熱く語ったところで話題が変わり、この日から新しく仲間となった二人の若い男性スタッフの紹介となりました。進行役の形通りの紹介の後でそれぞれの挨拶となったのですが、これがまあ、びっくりするくらいの大きな声で、よろしくお願いします、頑張ります、と宣言してくれるのです。
まさに、その場の空気を一変させるような元気と活力のみなぎる声で、新体制での始動を前にスタートラインについていた私の耳にはホイッスルの音のように聞こえました。なにはともあれスタートです。やるしかないのです。ホイッスルは高らかに鳴ったのです。
これを合図に、会社全体が前向きに躍動感を持ってイキイキと動き出すのが感じられました。
もっとも新人の二人は、自分たちがホイッスルを吹いたことには気付いてなかったでしょうが。