新しい年への願い

まさしく矢のごとくに時は過ぎ去って、今年も残すところあと1ヶ月となりました。
ここにきての話題の人物はもちろん日産のカルロス・ゴーン元会長で、連日更新される報道に目を丸くする日々が続いています。とはいえ、あれだけの名声を博した世界的経営者のたどり着いた先が今回の逮捕とは、その凋落ぶりに哀れさを感じるのは私だけでしょうか。
自分を律するということ
今回のこの事件を企業の舵取りを行う者の視点で眺めると、そこには経営者がともすると陥ってしまいがちな罠の存在を見出すことができます。
「コストカッター」として大規模なリストラを断行し、これがたちまち成果を上げて、有能な経営者としての世界的な評価を得たゴーン元会長。周りの人々に賞賛され、持ち上げられ、会社のなかではイエスマンだけに取り囲まれて充分すぎるほどの忖度のなかで、徐々に自分を過大評価していく。そんなプロセスが容易に想像できます。まさに、言いたい放題、やりたい放題で、誰も進言する者はいなくなり、自分のことを万能であるかのごとく錯覚していくのです。
それはゴーン元会長だけでなく、経営者の誰もが陥ってしまいがちな落とし穴です。
経営者はともすれば、自分の言うことを聞いてくれる人ばかりを大切にし、心地いい話ばかりに耳を傾けがちです。そうして少しずつ勘違いをしていくのです。きちんと苦言を受け止め、進言に耳を傾け、常に自分を律していく謙虚な姿勢がとても大事なのです。
経営者に求められるのは、その下で働く従業員の視点です。それを決して忘れてはいけない。今回の事件はそのことを改めて気付かせてくれました。
押広がる自国主義の波
さて、この前代未聞の不祥事でフィナーレとなりそうな2018年ですが、1年を振り返ってみると、やはり晴れ晴れした気分には程遠い、なんともしっくりこない陰鬱な1年だったという印象が拭えません。
大卒者の就職率と初任給が過去最高となったとの報道が駆け巡り、政府は景気回復を声高に連呼してはいるものの、一部だけが回復の恩恵に預かるいびつな社会状況であることに間違いはありません。一方で好調が叫ばれ、他方では人手不足による経営難が指摘されて、まさにちぐはぐな世の中になってきています。
我々を取り巻く自然環境はというと、猛暑に大型台風、洪水に地震、世界では頻発する山火事に酷暑と激寒。
そんな中で勢いを増していく自国主義の波。
先のゴーン元会長の事件も、ルノーと日産の綱引きに国が絡んで、フランスと日本の揉め事に発展しかねない状況です。
これでは良い1年だったなどとは到底思えません。
合い言葉はみんなで全世界で
自国主義、自社主義ではこの先の世界がゆがんでくることは目に見えています。
地球上のみんなが一致団結して、みんなで共に良くなって行こうとする意志こそが、いま最も大切なのではないかと考えます。
かつて関ヶ原の戦いで徳川家康に破れた石田三成は、「大一大万大吉」の文字を旗印に闘ったとされています。
「大一大万大吉」とは、一人が万人のために、万人が一人のために力を尽くせば皆が満足できる、という意味が込められているといいます。
戦国の世に自分たちの勝利を願った縁起物ではなく、理想の世界への志を掲げて闘った三成。その気高い精神は尊敬に値するものと思っています。
その理想こそが、現在のこの自己主義の世の中には何としても必要ではないかと思うのです。
みんなが一致団結して、良き世界へと努力していこうとする姿勢。自分たちだけではなく、万人のことを考えて、より良い社会の実現を目指そうとする姿勢。
来たるべき年は、その理想に少しでも近づいた清々しい世界を目にしたいと切に願っています。