ありがたい税務調査

8月末、猛暑のさなかに厚木税務署の職員の方が当社を尋ねてこられました。久しくその対象から外れていたようですが、実に十数年ぶりに税務調査が入ったのです。
企業に対する税務調査が行われる理由をインターネットで検索すると、「税務署が納税者の申告内容に何らかの疑いを抱いているから」だとする検索結果が真っ先に出てきます。
なんとも不穏な表現で、税務調査が嫌われ恐れられるのもむべなるかなという感じですが、私の解釈はまったく逆で、税務調査は大歓迎。よくぞ来てくださいましたという気持ちで、職員の方々をお迎えしました。
「招かざる客」だった頃
もちろん、私自身もこの会社を立ち上げた当初は、この税務署からのお客様が嫌でたまりませんでした。
訪問の予告が届いたその日から税理士さんのところに走り、なにか不備があったんだろうかと問うてみたりしたものです。
さらに経理担当のスタッフに数年前までの資料を準備してもらい、どこが指摘されるんだろうかと数字を眺めてみたりもしました。
調査の日はもっと大変でした。やりかけの仕事をすべて放り出して調査員からの質問に答え、お客様が来店されるのを失礼させていただいて…とまあ、「招かざる客」的な存在であったことに間違いありませんでした。
ですが、30年以上前の税務調査あたりから考えが変わりました。
経営を見直す機会として
税務調査というのは、費用なしで行ってくれる会計監査のようなものではないかと考え始めたのです。
私たちとしては正しく会計処理を行っているはずなのですが、たとえば処理方法や経費として認められるまたは認められないなどの解釈の違いが明らかになるからです。
また、経費として計上されている事柄が会社経営という面から見て本当に必要なものなのかと、改めて考えるよい機会にもなります。
もし仮に調査の結果、追徴課税ということになったら、その場合は追徴分を払えばいいだけの話なのです。
納税に対する意識も何十年と仕事をしていくうちに、すっかり変わってしまいました。
国のため、地域のため、みんなのためになるのだから、納税するのは素晴らしいことだという認識になってきました。
それだけ利益が出ているということなのですから、税を納めるのは誇るべきことなのではないかという考えに変わってきています。
信頼できる企業としてのお墨付き
とはいえ、十数年ぶりの税務調査となると経理担当スタッフとしては初体験という人がほとんどで、何か指摘されるのではないかという不安を抱いていたにちがいないと容易に想像できます。
そのスタッフたちの不安や懸念を経て、税または会計処理の意見交換がされたのは大変有益でした。
きちんとした企業として、胸を張って仕事をして、堂々と地域貢献できる会社にしようと認識を新たにしたからです。
さらに、訪れてくださった職員の方々も実に紳士的で、いろいろな会話のキャッチボールができ、最後には単純なもので、もっと利益を出してもっと納税しようという気にさえなっていました。
優先すべき一人一人の幸せ
職員の方の後ろ姿を見送ってから、現実に戻りました。
国に納税するのも大事、給与としてスタッフに還元するのも大事ではないかという考えがよぎったのです。
想像以上の物価高に国民の生活がどんどん圧縮されてきている昨今です。めぐりめぐって、まず第一に働くスタッフたちが幸せでなければなんにもならないという考えに落ち着いた調査の日でした。